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東京地方裁判所 平成6年(ワ)9893号 判決 1999年6月29日

原告

甲野太郎

右訴訟代理人弁護士

甲山一郎

甲山二郎

甲山三郎

甲山四郎

甲山五郎

小竹治

被告

株式会社乙川ビルディング

右代表者代表取締役

乙川花子

右訴訟代理人弁護士

谷内文雄

松原実

被告

○○放送株式会社

右代表者代表取締役

丙山一郎

右訴訟代理人弁護士

高津幸一

主文

一  被告株式会社乙川ビルディングは、原告に対し、金三億三〇〇〇万円及びこれに対する平成五年一二月九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告の被告株式会社乙川ビルディングに対するその余の請求及び被告○○放送株式会社に対する請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、原告と被告株式会社乙川ビルディングとの間においては、原告に生じた費用の二〇分の一を被告乙川ビルディングの負担とし、その余は各自の負担とし、原告と被告○○放送株式会社の間においては、全部原告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  請求

被告らは、原告に対し、連帯して金三〇億円及びこれに対する平成三年一二月二六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

本件は、弁護士である原告が、原告に事件を依頼した被告株式会社乙川ビルディング(以下「被告乙川ビル」という。)及び被告乙川ビルの原告に対する報酬支払債務を連帯保証したとする被告○○放送株式会社(以下「被告○○放送」という。)に対して、約定報酬又は相当報酬の支払を求めている事案である。

一  争いのない事実等

以下の事実は当事者間に争いがないか、証拠上明らかに認められる。

1  当事者

(一) 原告は東京弁護士会所属の弁護士である。

(二) 被告乙川ビルは、昭和四年に設立された、不動産の賃貸、売買等を目的とする会社であり、代表取締役は、昭和二一年一〇月二三日から平成元年五月二〇日死亡するまで、乙川二郎であった。また、昭和六三年一二月八日から現在まで、同人の妻である乙川花子が被告乙川ビルの代表取締役である(甲三六の一ないし五)。

(三) 被告○○放送は、昭和二七年三月六日に設立された、ラジオ及びテレビジョンによる放送事業を目的とする会社であり、代表者は、昭和二七年一一月三日から乙川二郎、昭和五六年六月から昭和六三年一一月二七日まで乙川二郎とその実子乙川三郎(同日死亡)の二名、平成元年五月二〇日まで乙川二郎と丙山一郎の二名、その後丙山一郎である。

2  本件不動産に関する紛争の発生

被告乙川ビルは、別紙物件目録記載一ないし三の土地(以下「本件土地」という。)及び同目録記載四の建物(以下「本件建物」といい、本件土地と合わせて「本件不動産」という。)を所有し、本件不動産の登記名義も被告乙川ビルとなっていた。

被告乙川ビル代表取締役乙川二郎は、昭和五〇年三月四日、A(以下「A」という。)に、本件不動産について売却代金六六億円(うち六五億円が被告乙川ビルの取得分、うち一億円がAに対する仲介手数料)での売却斡旋を依頼した。

Aは、昭和五〇年九月一九日、乙川二郎に、B土地株式会社(以下「B土地」という。)のCを紹介し、売買の話を進めたが、B土地が総額六六億円を支払う意思があるかどうか疑問が生じたので、乙川二郎は、B土地との取引をやめようと考えた。

しかし、A及びB土地は、昭和五一年二月一〇日、乙川二郎に対し、覚書及び建物賃貸借予約契約書と題する書面を作成して持参し、これらに署名捺印するように迫ったので、乙川二郎は、結局、同書面に署名捺印をしてしまった。右覚書及び建物賃貸借予約契約書の主な内容は、被告乙川ビルが、B土地に、本件建物の解体、新築建物の設計、施工を依頼して行い、新築建物をB土地に賃貸し、貸借権設定登記を行い、また、被告乙川ビルは、本件土地及び新築建物を共同担保として極度額三〇億円の根抵当権をB土地のために設定し、B土地は、右極度額の範囲内で被告乙川ビルに金員を貸し付けるというものであった(乙イ二九の一、二)。その後、被告乙川ビルは、B土地に対して、右覚書及び契約書の条項を改訂するように交渉したが、B土地はこれに応じようとしなかった。

被告○○放送の取締役会長であったDは、以上のような事情を知ったE(以下「E」という。)の通報により、同年四月二日ころ、被告乙川ビルとB土地との紛争を知った。そこで、Dは、同月五日、乙川二郎に対して、このままでは、被告乙川ビル及び乙川二郎所有の全財産をB土地に乗っ取られてしまうから、これを阻止するために緊急に本件不動産の登記名義を第三者に移転する必要があるといい、その結果、被告乙川ビルは、同月六日、Dの指示したF企業株式会社(以下「F企業」という。)に対して、本件不動産を代金一三億五〇〇〇万円で売却するとの契約を締結し、同月七日、本件不動産について、被告乙川ビルからF企業に対し、所有権移転登記がされた(乙イ三〇)。

これに対して、B土地は、F企業に対して、昭和五一年四月一二日、本件不動産についての処分禁止の仮処分決定(東京地方裁判所昭和五一年(ヨ)第二七九一号)を得て、直ちにその執行を行った(乙イ三一)。

3  訴訟事務等の受任

(一) 被告乙川ビルは、昭和五一年五月、原告に対し、B土地を原告、被告乙川ビル及びF企業を被告とする土地建物明渡及び所有権移転登記抹消登記請求事件(東京地方裁判所昭和五一年(ワ)第三五六四号)の訴訟事務を委任し、原告はこれを受任した(甲八。以下「第一事件」という。)。

第一事件は、B土地が、被告乙川ビルとの間で、被告乙川ビル所有の本件土地上に同被告が新築する建物について賃貸借予約契約を締結し、この契約によって、被告乙川ビルは、本件土地上に存在していた同被告所有の本件建物の解体工事及び新築建物の設計、施工をB土地に委託して行うことになっていたにもかかわらず、F企業との間で通謀して本件不動産を売却したかのように仮装することを合意し、F企業に対して、本件不動産を引き渡してその所有権移転登記を行ったとして、被告乙川ビル及びF企業に対して、本件不動産の明渡しを、F企業に対して、本件不動産についてされた所有権移転登記の抹消登記手続を求めた事案である(甲八)。

(二) 被告乙川ビルは、昭和五二年二月二〇日ころ、原告に対し、被告乙川ビルを債権者、F企業を債務者とする不動産処分禁止仮処分申請事件(東京地方裁判所昭和五二年(ヨ)第一二四八号)の処理を委任し、原告はこれを受任した(甲一一。以下「第二事件」という。)。

第二事件は、被告乙川ビルが、F企業に対して、本件不動産につき売買を原因として所有権移転登記を行ったが、この売買は通謀虚偽表示により無効であるとして、F企業に対する所有権移転登記抹消登記請求権を被保全権利として、本件不動産の処分禁止の仮処分を求めた事案である(甲一一)。

すなわち、原告は、第一事件受任当初、B土地に対し、F企業と共同歩調をとっていたが、第一事件の第一回口頭弁論期日の昭和五一年六月九日早朝、原告は、乙川二郎から、B土地との関係を金銭で解決し、かつ、F企業からも所有名義を取り戻して欲しいとの依頼を受けたので、その後、DやF企業に対し所有権移転登記の抹消登記手続をすることを求めたが、Dらは、仮装売買ではないとの主張を始めたので、第二事件の仮処分を申請し、さらに、第三事件の調停を申し立て、第六事件の訴えを提起したのである。

(三) 被告乙川ビルは、昭和五二年三月二九日ころ、原告に対し、被告乙川ビルを申立人、F企業を相手方とする所有権移転登記抹消登記請求調停事件(東京簡易裁判所昭和五二年(ノ)第七六号)の処理を委任し、原告はこれを受任した(甲一三。以下「第三事件」という。)。

第三事件は、第二事件と同一事案の調停申立事件である(甲一三)。

(四) 被告乙川ビルは、昭和五三年一月一一日ころ、原告に対し、被告乙川ビルを申立人、Eを相手方とする不動産仮差押命令執行取消申請事件(福井地方裁判所昭和五二年(ヨ)第二六七号)の処理を委任し、原告はこれを受任した(甲一四。以下「第四事件」という。)。

第四事件は、Eが、本件不動産について被告乙川ビルとF企業との間の売買を仲介したことによる被告乙川ビルに対する仲介手数料請求権を被保全権利とする被告乙川ビル所有不動産に対する仮差押決定の執行取消しを求めた事案である(甲一四、一五、一七)。

(五) 被告乙川ビルは、昭和五三年四月一八日ころ、原告に対し、Eを原告、被告乙川ビルを被告とする仲介手数料請求事件(東京地方裁判所昭和五三年(ワ)第二八九八号)の訴訟事務を委任し、原告はこれを受任した(甲一七。以下「第五事件」という。)。

第五事件は、Eが、被告乙川ビルに対して、被告乙川ビルから本件不動産の売却斡旋方依頼を受け、F企業との間の売買を仲介したことによる手数料の支払を求めた事案であり、第四事件の執行取消しの対象である仮差押命令事件の本案事件である(甲一七)。

(六) 被告乙川ビルは、昭和五三年九月二六日ころ、原告に対し、被告乙川ビルを原告、F企業を被告とする所有権移転登記抹消登記請求事件(東京地方裁判所昭和五三年(ワ)第九三六二号)の訴訟事務を委任し、原告はこれを受任した(甲二〇。以下「第六事件」という。)。

第六事件は、第二事件の本案事件であり、第三事件の調停申立事件とも同一の事案である(甲二〇)。

(七) 被告乙川ビルは、昭和五六年九月二二日ころ、原告に対し、被告乙川ビルを原告、Dを被告とする所有権移転登記抹消登記請求調停事件(東京簡易裁判所昭和五六年(ノ)第四二七号)の処理を委任し、原告はこれを受任した(甲二一。以下「第七事件」という。)

第七事件は、被告乙川ビルが、Dに対して、売買を仮装するため本件不動産の登記名義をF企業に移転し、その後、Dが登記名義を被告乙川ビルに返還することを委任したとして、F企業名義の本件不動産の所有権移転登記の抹消登記手続又は損害賠償を求めた調停事件である(甲二一)。

(八) 被告乙川ビルは、昭和六〇年一〇月一日ころ、原告に対し、F企業を原告、被告乙川ビルを被告とする建物退去請求反訴事件(東京地方裁判所昭和六〇年(ワ)第七六二六号)の訴訟事務を委任し、原告はこれを受任した(甲二二。以下「第八事件」という。)。

第八事件は、F企業が、被告乙川ビルに対して、本件建物の所有権に基づき本件建物からの退去を求めた事案であり、第六事件の本訴請求に対する反訴事件である(甲二二)。

(九) 被告乙川ビルは、平成元年五月、原告に対し、F企業を控訴人、被告乙川ビルを被控訴人とする第六事件及び第八事件の控訴事件(東京高等裁判所昭和六三年(ネ)第三五四六号)の訴訟事務を委任し、原告はこれを受任した(以下「第九事件」という。)。

(一〇) なお、原告は、被告乙川ビルの承諾を得て、昭和五一年四月から甲山二郎弁護士(以下「甲山二郎弁護士」という。)を、昭和五三年四月から甲山三郎弁護士(以下「甲山三郎弁護士」という。)を、昭和五七年四月から甲山四郎弁護士(以下「甲山四郎弁護士」という。)を、昭和六二年四月から甲山五郎弁護士を、それぞれ訴訟復代理人に選任して訴訟活動を行った(ただし、訴訟委任状では直接の委任になっている。)。

4  受任事件の経過及び終了

(一) 第一事件は、昭和五一年六月九日、第一回口頭弁論期日が開かれ、昭和五四年二月五日、第一五回口頭弁論期日において第六事件が併合され、以後、両事件は併合審理された。昭和六三年五月一七日、第六九回口頭弁論期日において、第一事件のうち、被告乙川ビルに対する弁論が分離され、昭和六三年七月一二日、B土地と被告乙川ビルとの間で、被告乙川ビルがB土地に対し六億円を支払い、B土地が請求を放棄するとの和解が成立し、さらに、昭和六三年七月一九日、第七〇回口頭弁論期日において、B土地がF企業に対する訴えを取り下げ、F企業がこれに同意したことにより、第一事件は終了した(甲二四、五六の一の一、一五、六九、七〇)。

(二) 第二事件は、昭和五二年二月二六日、処分禁止仮処分決定(保証金二億円)を得て終了した(甲一二)。

(三) 第三事件は、昭和五三年九月一三日、調停不成立により終了した。

(四) 第四事件は、昭和五三年一月一一日、請求債権額である四〇五〇万円の供託を理由に、執行取消決定を得て修了した(甲一五)。

(五) 第五事件は、第一審では、昭和五三年五月三〇日、第一回口頭弁論期日が開かれ、平成元年一〇月二五日、第五〇回口頭弁論期日において、Eの被告乙川ビルに対する請求を棄却する旨の判決が言い渡されたが、控訴審(東京高等裁判所平成元年(ネ)第三六七五号)では、平成二年七月二四日、被告乙川ビルに対し一三五〇万円及びその遅延損害金の支払を命ずる一部敗訴判決が言い渡された。被告乙川ビルは上告したが(最高裁判所平成二年(オ)第一四八三号)、平成三年七月一一日、上告棄却判決が言い渡されて終了した(甲二六、五七の一の一及び五〇、五七の二の一及び二、五七の三)。

(六) 第六、八事件は、第一審では、昭和六三年一一月一日、第七一回口頭弁論期日において、F企業に対し、本件不動産につき所有権移転登記の抹消登記手続を命じ、F企業の反訴請求を棄却するとの勝訴判決が言い渡された。その後、控訴審(第九事件)では、平成三年一二月二五日、被告乙川ビルが二六億五〇〇〇万円を支払うのと引き替えにF企業から本件不動産につき所有権移転登記の抹消登記手続を受け、F企業は反訴請求を放棄するとの和解が成立し終了した(甲二五、二七)。

(七) 第七事件は、昭和六二年一一月五日、調停不成立により終了した(甲五八)。

二  争点

1  弁護士会の紛議調停を経ていない本件訴えは却下されるべきかどうか。

(被告乙川ビルの主張)

弁護士法第四一条は弁護士会は報酬等の弁護士の職務に関する紛議を調停することができるとしているが、これは弁護士会の紛議調停前置を定めるという立法趣旨であり、何ら報酬契約がない場合及びその存否に争いがある場合には、まず所属弁護士会の紛議調停で解決することが必要であるから、これを経ない本件訴えは却下すべきである。

(原告の主張)

現行法においては、成功報酬の請求につき紛議調停前置主義は採られておらず、主張自体失当である。

2  原告と被告乙川ビルとの間で、報酬額について、全事件終了時における本件不動産の時価の一割とするとの合意があったかどうか。

(原告の主張)

原告は、昭和五一年六月二九日、石川県にある山中温泉よしのや旅館において、乙川二郎、被告乙川ビル社長秘書兼相談役のG(以下「G」という。)及び被告○○放送取締役総務局長のH(以下「H」という。)と第一事件について協議をした際、乙川二郎は、原告に対し、金にいとめはつけないから欲しいだけ言ってくれと述べたので、原告は、その都度必要なもの(着手金のこと)は申し上げますが、成功報酬は事件終了時の係争物の時価の一割を頂ければ結構ですと答え、乙川二郎はこれを承諾し、原告と被告乙川ビルとの間に、成功報酬について、事件終了時における本件不動産の時価の一割とするとの成功報酬額についての合意がされた。

本件不動産の最終事件解決時の本件不動産の時価は三〇〇億円をくだらないので、成功報酬額は三〇〇億円の一割の三〇億円である。

(被告乙川ビルの主張)

原告との間には、着手金の約定も、事件終了時における本件不動産の時価の一割という成功報酬額の合意もない。

昭和五一年当時、事件の見通しがついていない時点で、「金に糸目は付けない。」「ほしいだけ言って下さい。」というような会話が、仮にあったとしても、これは報酬打ち合せの協議とはいえず、単に相手を励ます趣旨の発言に過ぎず、したがって、このような会話の中で言う言葉に法律上の効果意思はない。

3  相当報酬額の請求は、時機に遅れた攻撃防御方法として却下されるべきかどうか。

(被告乙川ビルの主張)

原告は、平成九年二月三日付準備書面(同年一一月二七日の本件第二〇回口頭弁論期日において陳述)第五項において、相当額報酬の請求を追加しているが、原告は、平成七年一二月一八日の本件第一一回口頭弁論期日において、被告らに対し相当額の報酬請求はしないと述べている。したがって、原告は、相当額の報酬の主張を故意に時機に遅れて提出したのであるから、右主張は却下されるべきである。

(原告の主張)

原告は、既に平成七年一二月二〇日付準備書面(平成八年三月六日の本件第一二回口頭弁論期日において陳述)第七項において、「万が一約定を否定するのならば、会規を基準として報酬額が認定されてしかるべきである。」との主張をしており、相当報酬額の主張は時機に遅れて提出した攻撃防御方法ではない。平成七年一二月一八日の本件第一一回口頭弁論期日において、相当額の報酬請求はしないと陳述したのは、相当報酬額を主位的には主張しないという趣旨である。

また、そもそも報酬約定が認定されないときは、裁判所は、相当報酬額の主張がなくても、適正妥当な報酬額を認定しなければならないものである。

4  報酬額についての約定がなかったとして、相当報酬額はいくらか。

(原告の主張)

(一) 相当報酬額は、東京弁護士会の弁護士報酬会規(平成二年五月三〇日改正のもの。以下「報酬会規」という。)を基準にして、着手金分及び報酬金分が算定され、その合計額が相当報酬額となり、それから原告が被告加藤ビルから既に支払を受けた着手金を控除した残額が本件で認容されるべき報酬額となる。

(二) 相当報酬額の算定

報酬会規三条一項によれば、弁護士報酬は一件ごとに定められ、裁判上の事件は審級ごとに一件とされる。また、同条二項によれば、第一審のみを受任したときは第一審の着手金及び報酬金を受け、第一審を受任し、引き続いて控訴審も受任したときは第一審の着手金、控訴審の着手金及び報酬金を受けることになる。よって、第九事件(第六事件及び第八事件の控訴審)の着手金分も相当報酬額に合計される。

そして、同会規一五条によれば、着手金はその事件の対象の経済的利益の価額を、報酬金はその事件によって得た経済的利益の価額を基準として算定するとされ、算定方法等については同会規一六条ないし一八条等に規定されており、これらに従って算定された合計額が相当報酬額となる(なお、経済的利益の価額について、昭和五一年から同五六年までは、本件不動産の時価は六五億円()であり、第九事件の和解成立時である平成三年一二月二五日における本件土地の時価は三〇六億八六〇〇万円()、同日における本件建物の時価は六億九六四万円()である。)。

本件報酬は、B土地及びF企業から本件不動産を取り戻す事件が終了した時に支払われるものであるから、第一事件の報酬金について、B土地との和解成立時を報酬額の算定時点とすることはできず、あくまでも、全事件終了時、すなわち、平成三年一二月二五日を算定時点とすべきである。

また、和解金の控除は、B土地については和解金六億円を差し引くべきこととなるが、F企業については正味和解金である三億二三九三万六四四〇円のみを差し引くべきである。

相当報酬額の算定については具体的には次のとおりであり、報酬会規を基準として算定した額(以下「基準算定額」という。)は合計四七億六四三八万八五六円となる。

(1) 第一事件

着手金 経済的利益の価額

六五億円()

基準算定額

一億九六八四万五〇〇〇円

報酬金 経済的利益の価額

三〇六億九五六四万円

(+―六億円(第一事件で被告乙川ビルが支払った和解金))

基準算定額

九億二二七一万四二〇〇円

(2) 第二事件

着手金 経済的利益の価額

六五億円()

基準算定額

九八四二万二五〇〇円

(報酬会規二三条一項二号により二分の一)

報酬金 経済的利益の価額

六五億円()

基準算定額

九八四二万二五〇〇円

(同会規二三条一項二号により二分の一)

(3) 第三事件

着手金 経済的利益の価額

六五億円()

基準算定額

一億九六八四万五〇〇〇円

(4) 第四事件

着手金 経済的利益の価額

四〇五〇万円

基準算定額 七九万円

(同会規二六条二項準用により三分の一)

報酬金 経済的利益の価額

四〇五〇万円

基準算定額 七九万円

(同条三項準用により三分の一)

(5) 第五事件

着手金(第一審) 経済的利益の価額 四〇五〇万円

基準算定額 二三七万円

着手金(控訴審) 経済的利益の価額 四〇五〇万円

基準算定額 二三七万円

着手金(上告審) 経済的利益の価額 一三五〇万円

(上告審訴額)

基準算定額 一〇二万円

報酬金 経済的利益の価額

二七〇〇万円

(最終勝訴額)

基準算定額

一六九万五〇〇〇円

(6) 第六事件

着手金 経済的利益の価額

六五億円()

基準算定額

九八四二万二五〇〇円

(同会規二〇条二項により二分の一)

(7) 第七事件

着手金 経済的利益の価額

六五億円()

基準算定額

一億九六八四万五〇〇〇円

(8) 第八事件

着手金 経済的利益の価額

五〇億九八三九万五〇〇〇円

(昭和六〇年当時の本件土地価格九四億二三七五万円の二分の一+昭和六〇年当時の本件建物価格三億八六五二万円)

基準算定額

一億五四七九万六八五〇円

(9) 第九事件

着手金 経済的利益の価額

四六〇億二〇四〇万円

(第六事件分 平成元年当時の本件土地価格三〇〇億円+同年当時の本件建物価格五億一〇二〇万円

第八事件分 同年当時の本件土地価格三〇〇億円の二分の一+同年当時の本件建物価格五億一〇二〇万円)

基準算定額

一三億八二四五万七〇〇〇円

報酬金 経済的利益の価額

四六九億二四三四万三五六〇円

(第六事件分  +

第八事件分  の二分の一+

これらの合計額―三億二三九三万六四四〇円(第九事件で被告乙川ビルが支払った正味和解金))

基準算定額

一四億九五七万五三〇六円

(三) 既に支払を受けた着手金

昭和五一年五月一〇日 第一事件着手金として一〇〇〇万円

昭和五二年五月七日 第二、三事件着手金として五四七万八〇〇〇円

同年一一月二五日 第二、三事件着手金として一四五二万二〇〇〇円(右五月七日の五四七万八〇〇〇円との合は計二〇〇〇万円)

昭和五三年一二月二〇日 第六事件の着手金として三〇〇〇万円

昭和五七年一二月一〇日 一〇〇〇万円

昭和六〇年一〇月三一日 一〇〇〇万円

昭和六二年六月三〇日 五〇〇万円

昭和六三年一二月から平成二年一〇月まで 着手金の残金として一億一〇〇〇万円を分割払

平成二年七月三一日 第五事件の上告審の着手金として一〇〇万円

以上合計 一億九六〇〇万円

(被告乙川ビルの主張)

(一) 各事件の着手金及び報酬金について

(1) 第一事件

着手金 支払済みである。

昭和五一年四月一三日、訴訟費用名目で三〇〇万円、昭和五一年五月一〇日、第一事件着手金一〇〇〇万円を支払い、さらに、原告は第一、六、八事件の着手金一億九五〇〇万円の残金として一億一〇〇〇万円を請求し、被告乙川ビルはこれを支払っている。

報酬金 後記5で主張しているとおり、時効により消滅した。

(2) 第二事件

着手金 支払済みである。

昭和五二年五月七日に五四七万八〇〇〇円、同年一一月二五日に一四五二万二〇〇〇円を支払った。

報酬金 本事件は仮処分事件であって、原告との間に本訴事件と別途に支払う約定がなく、また慣行上も独立しての請求権はない。

(3) 第三事件

着手金 本事件は調停事件で、本訴に至る打診として行われたものであり、本訴事件と一体のものであるから、独立の請求権はない。

(4) 第四事件 本事件は、本件不動産に関する事件とは別事件であって、原告の請求権はない。なお、本事件は、第五事件を本訴として、Eが被告乙川ビルの不動産に仮差押をしてきたので、解放金を供託して執行を取り消しただけの単純な手続である。

(5) 第五事件 本事件も、本件不動産に関する事件とは別事件であって、原告の請求権はない。

(6) 第六事件

着手金 右第一事件のところで述べたとおり支払済みである。

(7) 第七事件 本事件は調停事件で、本訴に至る打診として行われたものであり、本訴事件と一体のものであるから、独立の請求権はない。

(8) 第八事件 本事件は、第六事件の反訴事件であり、反訴事件は、本訴事件と内容は同一であるから、この着手金は第六事件に含まれており、これは第一事件のところで述べたとおり支払済みである。

(9) 第九事件

着手金 原告は被告乙川ビルに対し控訴審(第九事件)の着手金を請求しないことから、着手金はなしとなる。

報酬金 これだけが未払いとなっている。

(二) 以上により、相当報酬額としては、第九事件の報酬金だけを考えるべきであり、その算定は次のようになる。

(1) 本件土地の価格については、本件建物はマイナス資産であるがこれを考慮しないとしても、昭和五一年一月時点で二三億五〇〇〇万円であったから、これを基本として考える。その後の地価上昇については、バブル期の異常高騰を考慮しないものとすると約2.545倍と考えるべきであるから、本件土地の価格は、五九億八〇七五万円となる。

(2) 右価格から、第九事件について被告乙川ビルが支払った和解金二六億五〇〇〇万円を差し引くと、三三億三〇七五万円となる。

この金額を処分金額として考える場合、ここから負担税率57.25%(現在法人税37.5%、市民税5.5%、事業税一二%、県民税2.25%、合計57.25%)を差し引けば、残額は一四億二三八九万円であり、これを経済的利益とみる。

(3) 右一四億二三八九万円について報酬会規により報酬金を算定すると、四四五六万円となる。

(4) また、被告乙川ビルは、原告に対し、日当、交通費、会議費等の名目で、報酬の趣旨で、一五一八万七六〇〇円を支払い、また、原告が実質的に被告乙川ビルの顧問ではなくなった平成六年六月以降今日まで五一か月間毎月一〇万円、計五一〇万円を支払っており、合計二〇二八万七六〇〇円は報酬金から差し引かれるべきである。したがって、右(3)記載の四四五六万円から、約二〇二九万円を差し引くと、二四二七万円となる。

5  第一事件の報酬請求権は時効により消滅したかどうか。

(被告乙川ビルの主張)

第一事件の和解成立は昭和六三年七月一二日であり、第一事件の報酬請求権は時効により消滅しているので、これを援用する。

(原告の主張)

本件報酬の対象となる依頼の趣旨は、既に提起されていたB土地からの訴訟に勝訴し、加えてF企業の所有権移転登記の抹消登記手続を実現することになった。したがって、第一事件についてB土地との間に和解しただけでは依頼の趣旨は達しないので報酬請求権は発生しない。

また、B土地との和解成立直後に、原告と被告乙川ビル(乙川三郎)との間において報酬は約定どおりF企業との紛争が解決して全部解決したときに最後にまとめて支払うとの確認があった。

したがって、B土地との和解についての報酬請求権はF企業との紛争解決まで発生せず、又は仮に報酬請求権が発生したとしても弁済期は到来せず、第一事件についての原告とB土地との和解成立は消滅時効の起算点とはならない。消滅時効の起算点はF企業との和解が成立した平成三年一二月二五日である。

したがって、原告は、被告乙川ビルに対して、平成五年一二月八日、報酬の支払を催告し、それから六か月以内に本件訴えを提起したものであり、消滅時効は中断している。

6  原告の報酬請求は司法に関する公の秩序に反し、訴求することができないかどうか。

(被告乙川ビルの主張)

過大な報酬請求をすることは弁護士倫理に反し、また、原告の行為及び存在が事件を複雑怪奇にしたのであり、原告の報酬請求は司法に関する公の秩序に反するから、裁判所に訴求することはできない。

(原告の主張)

被告乙川ビルの主張は根拠がなく、主張自体失当である。

7  被告○○放送は、原告に対して、被告乙川ビルの報酬支払債務につき連帯保証をしたかどうか。

(一) 被告○○放送の取締役東京支社長であるJ(以下「J」という。)は、原告に対して、被告乙川ビルの報酬支払債務につき連帯保証するとの約束をしたかどうか。

(原告の主張)

Jは、昭和五三年一一月一〇日には電話で、同月一四日には原告事務所に来所の上、被告乙川ビルの原告に対する報酬支払債務について、被告○○放送も連帯して保証することを申し出て、原告がこれを承諾した。また、右来所の際に、Jは、原告に対して、「○○放送は一丸となり全面的勝訴を勝ちとるまで戦い抜く決意」であることを伝え、その旨の記載のある覚書(甲五の一)を原告に交付した。

(被告○○放送の主張)

原告及びJは、連帯保証及びそれと同義の言葉を発しておらず、連帯保証をしていないことは明らかである。個人としての役員、従業員の単なる支援、協力活動の意向の表明や債権者に対する努力の要請をもって保証意思の表明にかえることはできない。

また、覚書(甲五の一)には、被告○○放送が弁護士報酬に関与する旨の記載は一切なく、まして連帯保証などということを想起させる表現は一切ない。

(二) 第七ないし九事件の報酬支払債務が被告○○放送の連帯保証の対象となるかどうか。

(原告の主張)

本件報酬の対象となる依頼の趣旨は、既に提起されていたB土地からの訴訟に勝訴し、加えてF企業の所有権移転登記の抹消登記手続を実現することにあったものであり、第七ないし九事件の報酬支払債務も連帯保証の対象に含まれる。

(被告○○放送の主張)

第七ないし九事件は、昭和五六年以後の事件であり、昭和五三年一一月には存在しなかったのであるから、その弁護士報酬が連帯保証の対象になる余地はない。

(三) Jに、被告○○放送が報酬支払債務の連帯保証をすることについての代理権があったかどうか。

(原告の主張)

Jは、被告○○放送の代表取締役であった乙川二郎から被告○○放送を代理して連帯保証することを頼まれ、原告に対して、その意思表示をしたのであり、Jには、被告○○放送が被告乙川ビルの報酬支払債務につき連帯保証をすることについての代理権が与えられていた。

(被告○○放送の主張)

Jは、乙川二郎の要請で被告乙川ビルの業務の「お手伝い」のため、原告と面談したり書類を運んだことがあるにとどまり、被告○○放送と原告との法律関係について被告○○放送を代理する権限を全く与えられていなかった。

すなわち、乙川二郎が、被告乙川ビルと被告○○放送の代理取締役社長であったときは、乙川二郎が被告乙川ビルの業務のために時として被告○○放送の人材を活用するということはあったが、それはあくまで「お手伝い」であって、組織として訴訟事件等にかかわるようなものではなかったのである。

8  被告○○放送が、被告乙川ビルの報酬支払債務について、原告と連帯保証契約を締結することは、商法二六五条一項に違反し、無効かどうか。

(被告○○放送の主張)

連帯保証をしたとされる当時、主債務者である被告乙川ビルの代表取締役及び連帯保証人である被告○○放送の代表取締役は双方とも乙川二郎であり、被告乙川ビルと被告○○放送は代表者を共通にしていた。したがって、被告○○放送が、被告乙川ビルの報酬支払債務につき連帯保証をすることは、被告○○放送とその代表取締役乙川二郎との利益が相反する取引となり、商法二六五条一項(昭和五六年改正前は解釈上)に基づき、被告○○放送の取締役会の承認を要するものであるところ、そのような承認は存在せず、かつ、原告は取締役会の承認を受けていないことを熟知していた。

したがって、被告○○放送代表取締役乙川二郎が、被告○○ビルの原告に対する報酬支払債務について連帯保証したとしても、それは、商法二六五条一項に違反し無効である。

(原告の主張)

被告○○放送が被告乙川ビルの原告に対する報酬支払債務について連帯保証することについては、被告○○放送の取締役会において承認されていた。

仮に、承認されていなかったとしても、原告は取締役会の承認は当然なされていると信じていたものであり、被告○○放送は、善意の第三者である原告に対し、商法二六五条一項違反による契約の無効を主張することはできない。

9  第一ないし六事件の報酬請求権は時効により消滅したかどうか。

(被告○○放送の主張)

弁護士の職務に関する債権は事件終了の時から二年で時効消滅するものであるところ、第一ないし六事件は、いずれも平成元年一〇月二五日(第五事件の第一審判決)までに事件が終了しており、これらの事件の報酬請求権は時効消滅しているので、これを援用する。

(原告の主張)

争点5の原告の主張と同じである。なお、原告は、被告○○放送に対して平成五年一二月二三日、報酬の支払を催告した。

第三  争点に対する判断

一  争点1について

弁護士法においては、報酬請求など弁護士の職務に関する紛議について弁護士会の調停を経た後でなければ訴えを提起することができないとは規定されておらず、紛議調停前置主義が採られていないことは明らかであるから、被告乙川ビルの争点1の主張は採用することができない。

二  争点2について

1  前記第二、一争いのない事実等、証拠(乙イ一ないし三、一三、一五ないし一八、三二ないし三九、四五、証人乙川春子、同N、同O、同H、原告本人)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

(一) 被告乙川ビルがF企業に本件不動産の所有名義を移転した後、被告乙川ビルの社長秘書兼相談役のG、被告乙川ビルの監査役で同ビル在住のK、被告○○放送の取締役総務局長のH及び同取締役東京支社長のJは、昭和五一年四月上旬、原告事務所を訪問し、原告に対し、B土地に対してどのように対処すればよいかについて相談をした。

被告乙川ビルは、同年四月八日、B土地に対して、賃貸借契約予約契約が不成立であるから、B土地から受けとっていた預託保証金二億円を返済する旨告げたが、B土地は口頭で受領を拒否した。さらに、被告乙川ビルは、B土地に対して、右二億円を現実に提供したが、B土地がその受領を拒否したので、被告乙川ビルは、原告を代理人として、右二億円を東京法務局に供託した。

(二) 被告乙川ビルは、昭和五一年五月六日、第一事件の訴状を受領し、その後、原告は、被告乙川ビルから第一事件について相談を受け、同事件を受任し、相被告となっているF企業訴訟代理人らと協議、打ち合せを行い、対応を検討した。

そして、原告は、同年六月一日、同事件の被告乙川ビルの答弁書を作成して提出した。しかし、そのころから、F企業の姿勢に変化が見られ始め、F企業と共同歩調をとることが困難となった。

(三) 同事件の第一回口頭弁論期日の同年六月九日早朝、乙川二郎から、原告に対し、電話で、第一事件に関し、B土地との関係のみならず、D、すなわち、F企業からも本件不動産の所有名義を取り戻して欲しいとの依頼を受けた。さらに、原告は、乙川二郎から、同日、「カイチョウ(D)ノユウジョウシンジガタシ・四・六ヒヅケトリヒキノサイバンエンキサレタシ」と「ギョフノリミスゴサレズ・四・六ヒヅケトリヒキノサイバンエンキサレタシ」の二通の電報を受領した。

(四) そこで、原告は、右期日のために提出してあった被告乙川ビルの答弁書第六項(通謀虚偽表示についての答弁)の陳述を延期留保した。そのため、その後、D、すなわち、F企業との共同歩調に乱れが生じ、Fの子であるLがF企業訴訟代理人とともに福井において乙川二郎に面談を求めるという険悪な状況になった。

(五) その面談の前日である同月二九日、山中温泉よしのや旅館において、原告、乙川二郎、G、H及びJが中心となって、今後の対応について協議が行われた。そして、H及びGが居合わせているとき、乙川二郎が、原告に対して、B土地との関係を金銭で解決し、F企業から本件不動産の所有名義を取り戻すことができるかどうか尋ねた。これに対して、原告は、引き続いてG及びHの協力が得られるのであれば可能である旨答えた。その際、乙川二郎は、金に糸目はつけない旨述べたことがあった。

(六) その後、昭和六三年一一月一日、第六、八事件について被告乙川ビルの勝訴の判決が言い渡されたが、同日付けで、原告から、乙川二郎に対して、第一、六、八事件の着手金一億九五〇〇万円の残金として一億一〇〇〇万円の支払を求める旨の請求書が送られた。

(七) 乙川三郎は、同月一八日、事故に遭い、同月二七日、死亡した。

(八) 昭和六三年一二月八日、被告乙川ビルの常務会が、福井市内のホテルアシュドールにおいて開催された。常務会においては、右(六)のとおり、原告から請求された着手金の残金一億一〇〇〇万円の支払について協議された。その際、M取締役から、乙川三郎が「成功報酬については結果を見てから考えようじゃないか。」と言っていたという発言があり、また、乙川春子常務から、「その後の成功報酬に関しては今後のことである。」という趣旨の発言があり、成功報酬について時価の一割とするということについては誰からも述べられなかった。

(九) O及びNは、昭和六三年一二月一六日、原告事務所を訪問し、右(六)の一億一〇〇〇万円の請求の計算方法について説明を求め、支払方法について相談した。その結果、五〇〇〇万円は直ちに支払うこととなり、被告乙川ビルは、五〇〇〇万円を同年のうちに原告に支払った。

(一〇) O及びNは、平成元年二月四日、原告事務所を訪問したが、その際、原告は、一割という約定については、「関係なさった人達の雰囲気じゃ、まあ、それだけの事件だからしょうがないな。」「時価の一割くらいは差し上げなきゃならんと。」、「いや、だからね。あれですよ。当時の話のね、大体、えー、あれですよ。いきさつと、確かいろんなね、まあ、あれですよ、○○放送の人達三人いらっしゃってね。まあ、雰囲気からすると、まあ、やっぱり時価の一割ぐらいはね、やっぱりあげなくちゃいけないというふうに話も私聞いたりしておりますし、そうしてもらえればいいんじゃないかなあ、念頭においていただけりゃ。」、「それはもう、Jさんとか、そういうところから一割という数字が上がって、時価の一割ということを言った。そこから出ておるわけでございますんで、お帰りになられましたらそういう話になっていたんだということだけ」などと述べていたが、乙川二郎と報酬について時価の一割とするという合意をしたことについては何ら述べなかった。

(一一) 原告は、平成元年五月一一日、被告乙川ビル専務取締役Nあてに、第九事件の委任状の提出を求める手紙を送ったが、その手紙に「控訴審の着手金はなしで、第一審の和解及び判決勝訴の謝金と今後の謝金の合計を物件時価の一割ということで訴訟を遂行させていただきます。」と記載した。

(一二) 平成元年五月一六日、第九事件の第一回口頭弁論期日が開かれたが、NやHらは、その前に、原告事務所を訪問し、同事件の委任状を原告に交付した。

(一三) 乙川二郎は、平成元年五月二〇日、死亡した。

(一四) Nは、平成元年七月一六日、原告から報酬を時価の一割の額という提案を受けたが、報酬規約やその時点での当社の財務の状況等を勘案して報酬支払の際に改めて協議させてほしい旨の手紙を原告に出した。

2  原告は、昭和五一年六月二九日、山中温泉よしのや旅館において、被告乙川ビル代表取締役乙川二郎との間で、報酬額は全事件終了時における本件不動産の時価の一割とするとの合意をしたと主張し、陳述書(甲七)及び本人尋問において、この主張に沿う供述をするほか、証人Hの証言、同証人等作成の確認書(甲四)や、証人乙川春子の証言等により裏付けられている旨主張するので、以下検討する。

(一) 原告本人は、その本人尋問において、右の合意をするに至った事情として、原告が当時参照し、依拠していた弁護士報酬規定(甲三二の一及び二、昭和三九年に改正されたもの。以下「報酬規定」という。)には、本件のように高額な事件(証拠(乙イ一四)によれば、昭和五一年一月当時の本件土地の更地価格については二三億五〇〇〇万円であるとの鑑定評価がされている。)は、手数料(着手金)及び謝金の額について、それぞれ五分ないし八分と定められており、本件の報酬については、手数料及び謝金につきその最低額の五分としてこれらを合算して一割とし、事件がすべて終了した時における目的物の価格の一割が相当であるとして、口頭で合意をするに至った旨供述する。

しかし、右報酬規定によれば、目的の価額は、受任の際における目的物の価額又は現実に受ける利益を標準とする旨定められていたこと、原告は、昭和六三年一一月一日、第一、六、八事件の着手金一億九五〇〇万円の残金として一億一〇〇〇万円の支払を求めたこと(1(六))、原告は、後記四3(一)のとおり、昭和五一年五月一〇日に被告乙川ビルからの金一〇〇〇万円の着手金を含め、総額二億円弱(相代理人弁護士の分を含む。)の支払を受けていること、また、原告の依拠したという報酬規定は、昭和五〇年七月一日に全面改正されており、原告の右合意があったと主張する昭和五一年には、前記報酬規定は既に効力を失い、新たな報酬会規では、一億を超える部分の手数料及び謝金は、経済的利益の価額の各三パーセントと定められているほか、会員は、事件を受任したときは、速やかに報酬契約書を作成するよう努めなければならない旨定められていること(なお、報酬規定にも同様の定めがあった。)が認められる。これらの事情に照らすと、原告の供述するように報酬規定により目的物の価額を前提に報酬額を算定して合意をするのであれば、事件を受任した当時の目的物の価額によることになるはずであり(もし、現実に受ける利益を標準とするというのであれば、和解により紛争を解決することも予定されていたのである(1(五))から、和解で終了した場合の算定方法も具体的に定められていたはずである。)、また、原告本人の供述どおりであるとすれば、着手金については、これを請求したり、受領したりしないはずであるのに、前記のとおり原告はこれを請求し、受領しているのである。そして、そもそも、弁護士である原告が、自己の所属する会の報酬に関する規則につきその改正があったことを知らないで、依頼者との間において口頭で、従前の規則に従い(改正後の規則と異なる)報酬に関する合意をしたということは、極めて不自然かつ不合理である上、右認定1(八)及び(一〇)の事実に照らせば、原告本人の前記供述は、信用するに値しないというべきである。

(二) 次に、原告の前記主張と同旨の記載のあるG及びH作成の確認書(甲四)があり、証人Hは、この確認書と同旨の証言をするが、原告の主張する合意があったことについては、右(一)の諸事情に照らして多大な疑問がある上、この確認書は、よしのや旅館における会合後約一八年経過し、本件がすべて終了してから約二年半後を経過した平成六年五月に、原告から本件訴状の原稿の写しを見せられて作成されたものであり、また、確認書には、乙川二郎が、よしのや旅館における会合において、原告にもならず、その作成者であるG及びHに対しても、原告と同様の成功報酬を支払う旨約したとの記載があるところ、G及びHは、前記のとおり、被告乙川ビルの社員ないし被告○○放送の取締役総務局長であって、これらの者に対して弁護士と同様の成功報酬を支払う旨を約すること自体不自然、不合理なものであって、これらの諸事情に照らして考えると、右確認書の内容や証人Hの証言は、信用性に乏しいものというべきである。

(三) また、証人乙川春子は、乙川三郎やG及びHから原告の報酬額につき本件不動産の一割であるという話を聞いた旨証言するが、これらはいずれも伝聞によるものである上、具体的な合意の内容(特に、何時の価格を基準にするかなど)や合意が確定的にされたものであるかどうかについて相矛盾したり、あいまいな供述をするほか、同証人は、被告乙川ビルに対して数件の訴訟を提起し、敗訴したものもあること、G及びHの供述の内容については、前記(二)のとおりその信用性に疑問があることに照らせば、証人乙川春子の右供述をもって、原告の前記主張を裏付けることも困難である。

(四) なお、右1(一一)、(一二)で認定した事実によれば、被告乙川ビルは、原告からの、報酬は一割で訴訟を遂行させてもらうが、控訴審(第九事件)に委任状が必要なので持参してくれるように求める手紙を受け取った上で、原告に委任状を交付していることが認められるが、これは、Nが、他の弁護士に相談をしたところ、控訴審は第一審と同じ代理人に依頼した方がよい旨の助言を受けたので、原告に控訴審(第九事件)を委任したにすぎず(証人N)、また、封筒(甲五の二)に「壱割で可(謝礼)」という記載があるが、これは原告自身が書いたものにすぎないから、これらの事情をもって、原告と乙川二郎との間に原告主張の報酬額の合意があったと認めるには足りない。

3  右2において検討したとおり、原告と被告乙川ビル代表者との間において昭和五一年六月二九日に、原告の報酬額を全事件終了時における本件不動産の時価の一割とするとの合意があったとの原告の主張に沿う原告本人の供述ないし証人H、同乙川春子の各証言等は、いずれもその信用性に疑問があるか、原告の右主張を裏付けるに足りないものであって、他にこれを認めるに足りる証拠はないから、原告の右主張を採用することはできない。

三  争点3について

被告乙川ビルは、原告の平成九年二月三日付準備書面(平成九年一一月一七日の本件第二〇回口頭弁論期日において陳述)における相当額報酬の請求の追加は、故意に時機に遅れた攻撃防禦方法を提出したものとして却下されるべきであると主張し、その根拠として、原告が、平成七年一二月一八日の本件第一一回口頭弁論期日において、「原告は、被告らに対し、相当額の報酬請求はしない。」と陳述したことを挙げる。

しかしながら、原告は、平成八年三月六日付準備書面(平成八年三月六日の本件第一二回口頭弁論期日において陳述)において、「前回(平成七年一二月一八日)の口頭弁論期日における原告陳述の趣旨は、原告は訴訟進行上前回の段階では相当報酬額について主位的には主張しないとの意味である。」と主張していること、また、原告は既に平成七年一二月二〇付準備書面(平成八年三月六日の本件第一二回口頭弁論期日において陳述)において、「万が一約定を否定するならば会規を標準として報酬額が認定されてしかるべきである。」と主張していること、さらに、そもそも裁判所は、報酬額について当事者間に別段の定めが認められない場合には、相当報酬額を算定しなければならないことなどからすると、原告の相当額報酬の請求の追加は、時機に遅れた攻撃防禦方法を提出したものであるということはできない。

四  争点4について

1  受任事件の概要等

前記第二、一争いのない事実等及び右二によれば、原告が乙川ビルから受任した訴訟事件は、第一、五、六、八、九事件であるが、第一事件は、B土地の被告乙川ビルに対する本件不動産の明渡請求事件(第一審)であり、第五事件は、Eの被告乙川ビルに対する仲介手数料請求事件(第一審ないし上告審)であり、第六事件は、被告乙川ビルのF企業に対する所有権移転登記抹消登記請求事件(第一審)であって、第一事件と併合審理されたものであり、第八事件は、F企業の被告乙川ビルに対する本件建物の明渡請求事件(第一審)であって、第六事件に対する反訴事件であり、第九事件は、F企業の被告乙川ビルに対する第六事件及び第八事件の控訴事件である。また、第二事件は、第六事件を本案とする仮処分申請事件であり、第三、七事件は、第六事件に関する調停申立事件であり、第四事件は、第五事件を本案とする不動産仮差押命令の執行取消申請事件である。そして、原告が、被告乙川ビルから、昭和五一年四月に本件について相談を受けた以後、第九事件の和解が成立した平成三年一二月二五日まで、全事件の解決に至るまで一五年以上かかっているところ、当初はB土地との間の第一事件だけであったが、その後、F企業ないしDとの間で第二、三、六ないし八事件が生じ、第六、八事件は被告乙川ビルの勝訴判決が言い渡された後、控訴され、第九事件が生じるに至ったこと、さらに、その他にも、Eとの間で第四、五事件が生じ、第五事件については、上告審まで争ったことが認められる。

ところで、被告乙川ビルの原告に対する依頼の主たる目的は、B土地との関係を金銭で解決し、F企業から本件不動産の所有名義を取り戻すことにあり、また、原告においても、本人尋問及び陳述書(甲七)において供述していることから明らかなように、本件の依頼の趣旨はあくまでも既に提起されていたB土地からの訴訟に勝訴し、加えてF企業の所有権移転登記の抹消登記手続を実現することであって、B土地だけ和解で解決しても事件は終了しないという認識を有していた。

右の本件受任事件の内容やその依頼の趣旨等からすれば、本件受任事件において、Eの被告乙川ビルに対する仲介手数料請求事件に関する受任事件(第四、五事件)を除く、その余の第一ないし三事件及び第六ないし九事件は、本件不動産をB土地及びF企業から取り戻すという一個の社会的事実の実現に向けられた一連の事件であり、その一個の事実の実現が依頼の目的となっていたということができるから、第一ないし三事件及び第六ないし九事件(以下「本件不動産事件」という。)と第四、五事件(以下「本件仲介手数料事件」という。)とを分けて、その報酬について検討する。

2  本件仲介手数料事件

原告は、本件仲介手数料事件(第四、五事件)の着手金及び報酬金として総額金七四五万五〇〇〇円が相当である旨主張するが、証拠(乙イ三、一〇)によれば、被告乙川ビルは、原告に対し、本件仲介手数料事件につき、その報酬(着手金を含む。)として、昭和五七年一二月一〇日に金一〇〇〇万円を、平成二年七月三一日に上告提起のため金一〇〇万円をそれぞれ支払っていること、被告乙川ビルがEに対して仲介手数料を支払うべきとされた控訴審判決は、委任者である被告乙川ビルと受任者である原告間において、被告乙川ビルにとって実質的には敗訴判決と認識されていたことが認められ、右事実に照らせば、被告乙川ビルは、原告の主張する報酬額を超える金額を既に原告に支払っており、被告乙川ビルの上告が棄却される場合には、被告乙川ビルが原告に右既払額を超える成功報酬を支払わないことが当事者間の意思であったことが認められ、被告乙川ビルが原告に対して平成二年七月三一日に金一〇〇万円を支払った際、その旨の合意がされた旨推認することができるところ、前記のとおり被告乙川ビルの上告は棄却されたのであるから、本件仲介手数料事件についての原告の被告乙川ビルに対する報酬請求は理由がないというべきである。

3  本件不動産事件の着手金

(一) 証拠(乙イ三、五ないし九、一一ないし一三)及び弁論の全趣旨によれば、被告乙川ビルは、原告に対して、次のとおり、本件不動産事件につき着手金を支払ったことが認められる。

(1) 同年五月一〇日 一〇〇〇万円 原告に対して

(2) 昭和五二年五月七日 五四七万八〇〇〇円 原告に対して

同年一二月七日 一四五二万二〇〇〇円 原告に対して

合計 二〇〇〇万円

(3) 昭和五三年一二月二七日 三〇〇〇万円 原告に対して

(4) 昭和六〇年一〇月三一日 五〇〇万円 原告に対して

同日 二〇〇万円 甲山二郎弁護士に対して

同日 二〇〇万円 甲山三郎弁護士に対して

同日 一〇〇万円 甲山四郎弁護士に対して

合計 一〇〇〇万円

(5) 昭和六二年六月三〇日 五〇〇万円 原告に対して

(6) 昭和六三年一二月二六日 二一〇〇万円 甲山二郎弁護士に対して

同日 一九〇〇万円 甲山三郎弁護士に対して

同日 一〇〇〇万円 甲山四郎弁護士に対して

平成元年二月二三日 三〇〇〇万円 原告に対して

同日から平成二年一〇月二五日 三〇〇〇万円 原告に対して

合計 一億一〇〇〇万円

(二) また、証拠(乙イ三、七の一ないし三、一三、一五、一七、三七)によれば、原告は、昭和五二年一一月二五日、被告乙川ビルに対し、第二事件の着手金残金として一四五二万二〇〇〇円を請求し、右(一)(2)のとおり、被告乙川ビルは、同年一二月七日、原告に対し、右金員を支払っていること、また、原告は、昭和六三年一一月一日、第一、六、八事件の着手金残金として一億一〇〇〇万円をまとめて被告乙川ビルに請求しており、その際、第二事件のみならず、第三、七事件については言及していないこと、右(一)(6)のとおり、被告乙川ビルは、昭和六三年一二月から平成二年一〇月までに右金員を原告らに支払っていること、第九事件(控訴審)の着手金については、原告において、被告乙川ビルにこれを請求しない旨述べて、これを前提に同事件の委任がされていることが認められる。

なお、原告は、第九事件(控訴審)の着手金については、約定報酬の一割とされているからこそ、これをなしとした旨主張するが、そのような限定又は条件があったことを認めるに足りる的確な証拠はない。

(三) 右(一)及び(二)の各事実に照らせば、第一、二、六、八事件の着手金については、原告は、被告乙川ビルに対してそれぞれ着手金残金として請求し、その請求額につき支払を受けており、当事者間において、少なくとも右各事件の着手金については、右各金額の支払をもって清算する旨の合意があり、その支払がされているのである。

ところで、第三、七事件は、第六事件に関する調停申立事件であって、第三事件は昭和五三年九月一三日に、第七事件は昭和六二年一一月五日にそれぞれ調停不成立により終了したのであって、原告は、右各調停事件が終了した後に、第六事件等につき着手金の残金一億一〇〇〇万円を請求していること、しかも、前記1のとおり、被告乙川ビル及び原告間において、第一ないし三事件及び第六ないし第九事件は、本件不動産をB土地及びF企業(D)から取り戻すという一個の社会的事実の実現に向けられた一連の事件であり、その一個の事実の実現が依頼の目的になっていたことからすると、第三、七事件の着手金についても、原告は、被告乙川ビルに対する第一、六、八事件の着手金残金の請求において、これを含めて請求し、被告乙川ビルも、これを含めてその支払をしたと認められるから、当事者間において、前記一億一〇〇〇万円の支払をもって第三、七事件の着手金も清算する旨の合意があり、その支払がされたというべきである。

そして、第九事件の着手金については、原告と被告乙川ビル間において支払わないものと合意されていたと認められる。

そうすると、本件不動産事件の着手金については、右のとおり当事者間ですべて清算済みないし支払わない旨の合意があったということができるから、原告の本件不動産事件の着手金の請求は理由がない。

4  本件不動産事件の報酬金

(一) 本件不動産事件のうち、第三、七事件は、いずれも調停不成立により終了したものであるから、成功報酬を請求することができないものである(原告もこれを請求していない。)が、前記のとおり、第一、二、六、八、九事件については、和解(第一事件)、仮処分申請の認容(第二事件)、勝訴判決(第一審、第六、八事件)、和解(第二審、第九事件)により終了したのであるから、以下これらの事件の成功報酬について検討する。

(二) 本件においては、原告と被告乙川ビルとの間に報酬額につき事件終了時の時価の一割とする旨の合意があったとは認められないことは、前記二において判示したとおりであるが、報酬の額について当事者間に別段の定めがない場合には、所属弁護士会の報酬規程を参考資料としつつ、事件の性質、難易、訴額、労力の程度及び依頼者との平生からの関係等の諸般の事情を考慮して、当事者の意思を推定し、相当な報酬額を算定すべきである。

(三) 原告所属の東京弁護士会の報酬会規によれば、弁護士報酬は、一年ごとに定めるものとし、裁判上の事件は審級ごとに一件とするとされている(三条一項)が、同一弁護士が上級審の民事事件を引き続いて受任したときの報酬金は、依頼者との協議により異なる定めをしたときを除き、最終審の報酬金のみを受けるものとするとされている(同条二項)ところ、原告と被告加藤ビルとの間において、審級ごとに成功報酬を支払う旨の定めがあったことを認めるに足りる証拠はないから、第六、八事件(第一審)とその控訴事件である第九事件については、第九事件の報酬金のみを受けることになる。

また、保全事件については、その事件が重大又は複雑であるときは、着手金に準じて報酬金を受けることができるとされている(二三条二項)ところ、証拠(甲一一、一二)によれば、第二事件につき、原告は、昭和五二年二月二四日、被告乙川ビルのF企業に対する本件不動産についての処分禁止の仮処分命令を東京地方裁判所に申請し、東京地方裁判所は、同月二六日、同旨の仮処分決定をしていること、被告乙川ビルは、原告に対し、その請求に応じて、同年一二月七日までに、被告乙川ビルに対し、第二事件の着手金として二〇〇〇万円を支払っているが、その後本件訴訟に至るまで、原告は、被告乙川ビルに対して、第二事件の成功報酬金の請求をしていないことが認められる。右事実、特に第二事件の仮処分が当事者を恒定するためのものにすぎず、仮処分の申請後直ちに認容の決定がされていること等からすると、第二事件の仮処分事件は、重大であるとも、複雑であるとも認めることはできないから、報酬会規上、その成功報酬を請求することができないものということができる。

そうすると、報酬会規上、原告が被告乙川ビルに対して請求することができる報酬(成功報酬)は、第一事件及び第九事件の報酬に限られることになるが、前認定の本件不動産事件の受任の経緯及び内容や、依頼の趣旨等に照らしても、これを相当であると認めることができる。

(四) 事件等処理により確保した経済的利益の価額

(1) 報酬会規によれば、報酬金は、依頼の目的を達した時に支払いを受けるものとするとされ(二条二項)、報酬金はその事件等処理により確保した経済的利益の価額を基準として算定するとされている(一五条)。前記のとおり、本件の依頼の趣旨は、B土地からの訴訟に勝訴又はB土地との関係を金銭で解決し、加えてF企業の所有権移転登記の抹消登記手続を実現することになり、したがって、依頼の目的を達した時とは、平成三年一二月二五日、第九事件についてF企業との間で、F企業が本件不動産につき所有権移転登記の抹消登記手続きをするという和解が成立した時点(前記第二、一争いのない事実等4(六))となる。

したがって、報酬会規上、報酬金の基準となる経済的利益の価額については、第一事件についても、平成三年一二月二五日の和解成立時点を基準とすることになる。

(2)  そこで、第一事件と第九事件の経済的利益の価額についてみるに、まず、第一事件の訴訟物は、B土地の被告乙川ビルに対する賃貸借予約契約における合意に基づく本件不動産明渡請求権であるところ、報酬会規は、賃借権の経済的利益の価額については、対象たる物の時価の二分の一の額(その権利の時価が上記の価額を超えるときは、その権利の価額)と定めている(一六条六号)が、訴訟物が賃貸借予約契約における合意に基づく明渡請求権である場合の経済的利益の価額の算定基準については明確には定めていない。ところで、民事訴訟における訴訟物の価額(訴額)の算定においては、契約関係に基づく明渡請求権の訴額は、目的たる物の価格の二分の一とされており(昭和三一年一二月一二日付け民事甲第四一二号民事局長通知「訴訟物の価額の算定基準について」(以下「訴額通知」という。))、右の訴額通知をも参考にして考えると、第一事件の経済的利益の価額は、本件不動産の時価の二分の一の価額であるとするのが相当である。

次に、第九事件は、第六事件と第八事件の控訴事件であり、第六事件の訴訟物は、被告乙川ビルのF企業に対する本件不動産の所有権に基づく所有権移転登記抹消登記請求権であるところ、報酬会規は、不動産についての所有権の登記手続請求については、所有権の経済的利益の価額である対象たる目的物の時価に準じた額(一六条一〇号、五号)と定めている。ところで、民事訴訟における訴額算定についての実務は、所有権に基づく抹消登記請求権は、被告名義の登記が原告の実体的な所有権を妨害している状態の排除を目的としていることから、その訴額は目的たる物の価格の二分の一とされており(訴額通知7(1)の準用)、民事訴訟における訴額の算定についての取扱いを考慮すれば、第六事件の経済的利益の価額については、本件不動産の時価の二分の一の額であるとするのが相当である。そして、第八事件の訴訟物は、F企業の被告乙川ビルに対する本件建物所有権に基づく建物退去請求権であるが、第八事件は、第六事件に対する反訴事件であって、第六事件と別個独立にその経済的利益の価額を検討するまでもなく、第六事件に包括吸収される関係にあるというべきである。したがって、第九事件の経済的利益の価額は、本件不動産の時価の二分の一の額である。

(3) そこで、第九事件が和解(以下「本件和解」という。)により終了した平成三年一二月二五日における本件不動産の時価について検討するに、証拠(乙イ五〇の一)によれば、本件建物は、昭和四年に新築されたが、戦災により大部分が焼失し、戦後大修繕と増築が行われた老朽建物であり、昭和四七年に改築を予定して賃貸店舗の立ち退きが行われたが、その後一七年間殆ど保守がされず、平成三年当時においては、賃貸ビルとしての使用ができない状況にあり、取り壊して、新たにビルを建築するのが適当な状態であったこと、被告乙川ビルは、平成五年二月に本件建物を取り壊し、平成六年一二月までに本件土地上に一〇階建のビルを建築したことが認められるから、本件不動産の時価は、本件土地の更地価格から本件建物の取り壊し費用を控除した価格とするのが相当である。

ところで、前記のとおり、報酬会規上、報酬金はその事件等処理により確保した経済的利益の価額を基準として算定するとされ、依頼者の得た経済的利益の価額が基準とされているところ、証拠(乙イ四九の一、二、五〇の一)からも明らかなように、我が国の商業地(六大都市)の地価は、平成六一年から著しく高騰し始め、平成二年にそのピークとなり、平成三年から下落傾向に転じて今日に至っており、このいわゆるバブル期においては、将来の土地の値上がり期待まで織り込んで土地が買い進められたために、土地の取引(比準)価格が急上昇して、土地の収益価格との間に格差が生じており、しかも、この収益価格も、土地の取引価格の高騰により、新規賃料額が騰貴していたことから、土地の取引価格に準じて過大に評価されていたのである。そして、証拠(乙イ五〇の一、証人H、原告本人)及び弁論の全趣旨によれば、乙川二郎は、本件不動産を財源にして財団を設立するという意向を有していたが、遅くとも本件和解当時においては、被告乙川ビルは、本件建物を取り壊して新たにその所有建物を建築する意向であり、被告乙川ビルは、平成五年二月に本件建物を取り壊し、その後自己所有のビルを建築していることが認められ、いわゆるバブル期において、依頼者が訴訟の目的物である土地を他に処分する目的ではなく、自己所有地として保有することを目的としていた場合には、依頼者の得た経済的利益の価額は、その土地の取引(比準)価格を主な基準として算定した額よりも、実質的にははるかに少ないものであって、その経済的利益の価額を算定する場合の土地の時価は、主に土地の収益価格を基準として算定するのが相当である。

証拠(甲二八の三、一〇一、乙イ五〇の一、証人O)及び弁論の全趣旨によれば、本件和解時における本件土地(更地)の取引(比準)価格は三一一億円、その収益価格は二五〇億円であり(甲一〇一、以下「珍田鑑定書」という。)、本件建物の取り壊し費用は、一億九九六二万円であると認められる。

なお、被告乙川ビルは、本件不動産の本件和解当時の時価が二〇三億円である(なお、本件土地の取引(比準)価格は一平方メートル当たり二五四七万円(総額約二二六億円)、収益価格(一年後更地化による)は約一六一億円)との不動産鑑定士平松宏子作成の鑑定書(乙イ五〇の一、以下「平松鑑定書」という。)を提出している。しかし、平松鑑定書は、収益還元法による評価の際、価格時点を本件和解時である平成三年一二月二五日としながら、本件和解時から一年後に更地化するという理由により、鑑定当時の更地価格に時点修正(変動率81.2.%)を加えて本件和解時から一年後の更地価格を算出しているが(同鑑定書一九、二〇頁)、これは右価格時点よりも後の実際の地価の低下を考慮するものであって、相当とはいえないほか、珍田鑑定書は、取引事例比較方式による評価の際、取引事例の採用について基準を示しているのに対し(同鑑定書一〇頁、別表1)、平松鑑定書は、原価法による評価の際に土地価格につき再調達価格を取引事例比較方式により求めてはいるものの、取引事例の採用について基準を示しておらず(同鑑定書表1ないし4)、また、両鑑定書は、標準画地の比準価格から対象不動産の比準価格を求める際、個別的要因による増減価要因に基づく修正を加えているが、珍田鑑定書は、その修正の理由について具体的に説明しているのに対し(同鑑定書一〇、一一頁)、平松鑑定書は、数字を示すのみで具体的理由を述べていないなど、平松鑑定書は、珍田鑑定書に比し客観性に乏しいものである。また、証拠(甲二八の三、証人O)によれば、本件和解に際し、被告乙川ビルのOが作成した和解案計算書(甲二八の三)には、本件土地の時価について、三〇六億八六〇〇万円という記載があることが認められ、被告乙川ビルにおいても、本件土地の取引価格について、三〇〇億円を超えるという認識を有していたと認めることができ、これらの事情からすると、平松鑑定書の鑑定評価額を採用することはできない。

ところで、珍田鑑定書によれば、本件土地(更地)の取引(比準)価格を三一一億円とし、その収益価格を二五〇億円とした上で、取引(比準)価格を八、収益価格を二の割合で本件土地の時価(更地価格)を算出しているが、前記のとおり取引(比準)価格を主たる基準として本件土地の時価を算出するのは、本件では適切とはいい難く、本件土地の更地価格については、収益価格を主たる基準として、つまり取引(比準)価格を二、収益価格を八の割合で算出するのが相当であるから、本件土地の更地価格は、二六二億二〇〇〇万円となり、本件土地の時価は、これから前記の本件建物の取り壊し費用一億九九六二万円を控除した二六〇億二〇三八万円である。

したがって、第一事件及び第九事件の経済的利益の価額については、いずれも本件土地の時価である二六〇億二〇三八万円の二分の一である一三〇億一〇一九万円となる。

(4) そこで、第一事件及び第九事件の処理により確保した経済的利益の価額についてみるに、前記第二、一争いのない事実等のとおり、被告乙川ビルは、第一事件におけるB土地との間の和解において、B土地に対して、六億円を支払っているから、第一事件の処理により確保した経済的利益の価額は、前記一三〇億一〇一九万円から右の六億円を控除した金一二四億一〇一九万円となり、また、第九事件におけるF企業との間に和解において、F企業に対して、二六億五〇〇〇万円を支払っているから、第九事件の処理により確保した経済的利益の価額は、前記一三〇億一〇一九万円から二六億五〇〇〇万円を控除した一〇三億六〇一九万円となる。

この点、原告は、第九事件において、被告乙川ビルが支払った二六億五〇〇〇万円から、被告乙川ビルが支払ってきた公租公課、F企業が売買代金として供託した金額、F企業が支払った仲介手数料、所有権移転の登記費用及び訴訟関係費用など、本来被告乙川ビルが支払義務のあるものや、F企業に立替払をしてもらった金額に対する利息等を控除した残額である三億二三九三万六四四〇円が正味和解金にあたるとして、経済的利益の価額から差し引くべき金額は、右の正味和解金三億二三九三万六四四〇円であると主張する。

しかし、右売買代金は供託金をもってそのままF企業に返還されているし(甲三〇の二、一〇〇、乙イ一九、弁論の全趣旨)、その他のものについても、F企業から被告乙川ビルに対して支払を請求する訴えが提起されたわけでもなく、甲第三〇号証の二や乙イ第一九号証に記載のある正味和解金等の計算は、あくまでも、和解金額をいくらにするかという目安にすぎないものである。また、被告乙川ビルが、F企業に本件不動産の所有名義がある間、本件建物を取り壊して新しい建物を建築したり、その他、本件不動産を自由に使用、収益、処分できなかったことの逸失利益等があることは明らかであるところ(乙イ三)、被告乙川ビルは、F企業に請求することができる逸失利益があるにもかかわらず、本件和解において、被告乙川ビルのみが、和解金を支払っているのであって、二六億五〇〇〇万円の和解金から本来被告乙川ビルが支払義務のある公租公課等を控除して残りの正味和解金のみを経済的利益の価額から差し引くべきとする合理的な理由はないといわなければならない。

したがって、原告の右主張は採用することができない。

(五) 報酬額の算定

そうすると、被告乙川ビルが、第一事件の処理による確保した経済的利益の価額は、一二四億一〇一九万円となり、第九事件の処理により確保した経済的利益の価額は、一〇三億六〇一九万円となる。

ところで、報酬会規一八条一項によれば、報酬額は、右経済的利益の価額を基準として、同項所定の階段区分に従って、同項所定の一定の利率を乗ずることにより算定することとされている。同項では、経済的利益の価額は八段階に区分され、高額な階段区分になるに従って、料率が逓減されているが、一億円を超える部分については一律に三パーセントと規定されているだけで、それ以上の階段区分は設けられていない。しかし、高額な段階区分になるに従って、料率が逓減されているという報酬会規の規定方法からすると、一億円を超えるような高額な部分につきいくら高額となっても一律に三パーセントとされていると形式的に解するのは合理的ではなく、報酬会規の合理的な解釈としては、一億円を超える部分についても、一億円までの逓減割合準じて、更に階段区分を設けて料率を逓減することが予定されているというべきである。したがって、報酬会規における料率の逓減割合に準じ、一億円を超え一〇億円以下の部分については三パーセント、一〇億円を超え三〇億円以下の部分については二パーセント、三〇億円を超える部分については一パーセントと解するのが相当である(なお、本件の事件処理により確保した経済的利益の価額は、前記のとおり約一〇三億円ないし一二四億円であるが、仮に、これが更に高額なものとなる場合には、更に階段区分を設けて料率を逓減することになる。)。

そこで、一億円を超える部分の料率については右のとおりとして、その他は報酬会規一八条を基準として報酬額を算定すると、第一事件については一億四五四四万六九〇〇円、第九事件については一億六五九四万六九〇〇円となり、合計三億一一三九万三八〇〇円となる。

5  増額及び減額

(一) 報酬会規によって算定された報酬額は、右のとおりとなるが、前記4(二)で述べたとおり、事件の性質、難易、労力の程度及び依頼者との平生からの関係等の諸般の事情を考慮し、右報酬額を増額又は減額して、相当報酬額を定めるべきであるから、この点について以下検討する。

(二) 事件の性質、難易及び労力の程度

前記第二、一争いのない事実等及び右二によれば、原告が乙川ビルから第一事件を受任したのは昭和五一年五月であり、第九事件が和解により終了したのは平成三年一二月であることが認められる。すなわち、第一事件受任後、第九事件が終了し、本件不動産をB土地及びF企業から取り戻すという本件の依頼の趣旨目的を最終的に達成するまでには一五年間以上というかなり長期間の年月を必要としたということができる。さらに、証拠(甲五六の一の一ないし五六の三の二六)によれば、第一事件の口頭弁論期日は七〇回にも及んでいること、第六事件は、第一回口頭弁論期日において、第一事件に併合され、第一事件の第一五回口頭弁論期日以後、併合審理されたこと、第四〇回口頭弁論期日において和解勧告がされ、和解期日が六回にわたり開かれたこと、第五一回口頭弁論期日には第八事件の反訴状が陳述されたこと、第一事件と第六、八事件は、第六九回口頭弁論期日で分離され、第一事件は第七〇回口頭弁論期日において和解が成立したが、第六、八事件については第七一回口頭弁論期日において判決が言い渡されたこと、その後、第六、八事件は控訴され、第九事件(控訴審)は、第四回口頭弁論期日において弁論終結の上、和解勧告がされ、和解期日が四回開かれたが、その後弁論が再開され、さらに第一一回口頭弁論期日が四回開かれたが、その後弁論が再開され、さらに第一一回口頭弁論期日において和解勧告がされ、七回にわたり和解期日が開かれたことが認められ、第一、六、八、九事件の解決には、長期間の年月を必要としただけではなく、口頭弁論期日も多数回にわたって開かれたということができる。また、右各事件につき、原告のほか、三名の弁護士が被告乙川ビルの訴訟代理人として訴訟を遂行したという事情もある。

したがって、これらの事情は、事件の性質、難易及び労力の程度という点において、報酬金算定の増額事由として考慮すべきである。

この点、被告乙川ビルは、本件の事件が長期化した原因は原告にあり、これを減額すべき事情として考慮すべきであると主張するが、原告が事件の長期化に寄与した事実を認めるに足りる証拠はなく、また、他に減額すべき事情にあたるような原告の行為があったことを認めるに足りる証拠もない。前記第二、一争いのない事実等によれば、むしろ、B土地との間で本件不動産について不明瞭な賃貸借予約契約を締結し、さらにB土地に本件不動産を取られるのを恐れてF企業(D)と売買契約を締結するなどの被告乙川ビルの対応自体が、事件を複雑困難にし、長期化させた主な要因であることが窺えるのであって、被告乙川ビルの右主張は採用することができない。

(三) 被告乙川ビルの支払った金額、依頼者との平生の関係など

前記3で認定したとおり、被告乙川ビルは、原告に対し、本件不動産事件につき着手金を支払っているが、そのうち、第一事件及び第九事件の第一審である第六、八事件に関するものであることが明らかであるものは、証拠(乙イ六、九、一三)及び弁論の全趣旨によれば、昭和五一年五月一〇日に支払った一〇〇〇万円(第一事件)、昭和五三年一二月二七日に支払った三〇〇〇万円(第六事件)、昭和六三年一二月二六日から平成二年一〇月二五日までの間に支払った一億一〇〇〇万円(第一、六、八事件)、合計一億五〇〇〇万円であると認められる。

また、証拠(乙イ三、五、八、一二)及び弁論の全趣旨によれば、被告乙川ビルは、原告に対して、昭和五一年四月一三日、相談料として一〇〇万円を支払い、甲山二郎弁護士に対して、昭和五三年九月六日、独立開業祝として五〇〇万円を支払い、甲山三郎弁護士に対して、昭和六二年五月一八日、準備書面作成手数料として五〇万円を支払ったことが認められる。

さらに、証拠(甲七)によれば、原告は、昭和四八年ころから、被告乙川ビルの顧問弁護士になっていることが認められ、証拠(乙イ三)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

(1) 被告乙川ビルは、原告に対し、昭和五一年三月から昭和五二年三月まで、従来の五万円の顧問料を増額して毎月一〇万円を、同年四月から昭和六三年一二月まで毎月一一万一一一一円を、平成元年一月から平成六年五月まで毎月一〇万円を、合計二三四六万六六五一円を顧問料として支払い、また、同年六月以降も今日まで、毎月一〇万円、合計五一〇万円を顧問料として支払った。

被告乙川ビルは、原告に対し、昭和五五年夏から平成三年冬まで毎年夏冬賞与名目で、各五五万五五五五円の合計一三三三万三三二〇円を支払った。

(2) 被告乙川ビルは、甲山二郎弁護士に対し、昭和五二年四月から平成四年三月まで毎月五万五五五五円を顧問料名目で合計九九九万九九〇〇円を支払い、昭和五五年夏から平成三年冬まで毎年夏冬賞与名目で、各二二万二二二二円の合計五三三万三三二八円を支払った。

(3) 被告乙川ビルは、甲山三郎弁護士に対し、昭和五六年夏から平成三年冬まで毎年夏冬賞与名目で、各一一万一一一一円の合計二四四万四四四二円を支払った。

(4) 被告乙川ビルは、甲山四郎弁護士に対し、昭和五七年夏から平成三年冬まで毎年夏冬賞与名目で各五万五五五五円の合計一一一万一一〇〇円を支払った。

(5) さらに、被告乙川ビルは、各事件の打ち合せ、法廷出頭の際に、会議費、都内旅費名目で、原告に対し、一〇万円、甲山二郎弁護士、甲山三郎弁護士、甲山四郎弁護士に対し、各五万円の合計一五一八万七六〇〇円を支払った。

(6) 以上のとおり、被告乙川ビルは、原告、甲山二郎弁護士、甲山三郎弁護士及び甲山四郎弁護士に対して、顧問料、賞与、会議費、旅費名目で合計七五九七万六三四一円を支払った。

以上の事実を総合すると、原告は、第九事件(控訴審)の着手金はこれをなしとしてその支払を受けていないものの、第一事件及び第九事件の第一審である第六、八事件の着手金として一億五〇〇〇万円もの金員の支払を受けていること、被告乙川ビルは、原告らに対して、相談料等の名目で、合計六五〇万円を支払ったこと、原告は、昭和四八年ころから、被告乙川ビルの顧問弁護士であり、被告乙川ビルは、原告らに対して、顧問料や賞与の名目で、合計七五九七万六三四一円を支払ったことが認められ、原告らは、被告乙川ビルから、報酬金そのものではないとはいえ、着手金、顧問料及び賞与その他の名目で既に多額の金員を受領しているというこれらの事情は、報酬金算定の減額事由として考慮すべきである。なお、この点、被告乙川ビルは、顧問料、賞与、会議費等は報酬の一部であるかのような主張をし、乙イ第三号証にも同趣旨の記載があり、証人Oも証人尋問においてそのような趣旨の供述をするが、これらは右認定事実に照らし採用することができない。

(四) 右(二)及び(三)の増額及び減額すべき各事情並びに本件受任事件の目的ないし内容等諸般の事情を総合して勘案すると、被告乙川ビルが本件不動産事件(第一、九事件)につき原告に支払うべき報酬額は、三億三〇〇〇万円が相当であるというべきである。

6  遅延損害金について

右相当報酬額に対する遅延損害金の起算点、すなわち、弁済期について検討するに、原告は、平成三年一二月二五日を弁済期とする約定があったことを前提に、その翌日からの遅延損害金を請求している。しかし、原告の右請求は、事件終了時に時価の一割を報酬として支払うという約定があったことを前提とするものであり、時価の一割という約定を認めるに足りる証拠がないことは、右二で述べたとおりであり、また、報酬の弁済期について事件終了時とするとの約定があったという事実を認めるに足りる証拠もない。むしろ、右二1で認定した事実によれば、被告乙川ビルは、成功報酬については、事件終了後に改めて協議することになっていたと認識していたと認めることができる。

そうすると、被告乙川ビルの本件報酬支払債務は、期限の定めのない債務といえ、遅延損害金については、原告が、被告乙川ビルに対して、弁護士報酬を催告した平成五年一二月八日(甲二の一、二)の翌日がその起算日となる。

したがって、被告乙川ビルは、原告に対して、前記相当報酬額三億三〇〇〇万円及びこれに対する平成五年一二月九日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。

五  争点5について

右二、四で認定した事実によれば、被告乙川ビルの原告に対する本件不動産事件の依頼の趣旨目的は、B土地との関係を金銭で解決し、かつ、F企業から本件不動産の所有名義を取り戻すということにあり、本件不動産事件につき原告とF企業との間で和解が成立した時に、第一事件を含め本件不動産事件の受任事件が終了したと認められるから、本件報酬の履行期は、右和解成立時である平成三年一二月二五日というべきであり、原告は、平成五年一二月八日到達の書面で、被告乙川ビルに対して報酬の支払を催告し(甲二の一、二)、その後六か月以内の平成六年五月二四日に本件訴えを提起していることは記録上明らかであるから、消滅時効は中断しているといえ、時効により消滅したという被告乙川ビルの主張は採用することができない。

六  争点6について

被告乙川ビルは、原告の本件報酬請求は司法に関する公の秩序に反し、訴求することができない旨主張するが、本件全証拠によってもこれを認めるに足りない。

七  争点7(一)について

原告は、Jが被告○○放送も連帯して保証することを申し出て、原告がこれを了承したことにより、連帯保証契約が成立した旨主張し、陳述書(甲七)及び本人尋問においてこれに沿う供述をする。

しかし、原告は、本人尋問において、連帯保証の意味ですねと申し上げた気もすると供述するにとどまり、原告の供述自体、Jとの間で連帯保証の約束がなされたかどうかについてあいまいである。また、証拠(甲五の一、二、七、原告本人)によれば、Jは、昭和五三年一一月一四日、原告と会い、その際、原告に対し覚書を交付していることが認められるが、右覚書の中には連帯保証という言葉はなく、「○○放送は一丸となり全面的勝訴を勝ちとるまで戦い抜く決意でおります。」という文言が記載されているにすぎない。さらに、証人Pの供述によれば、同証人は右覚書に署名押印したが、連帯保証する意思は全くなく、手伝うという趣旨で署名押印したことが認められ、これらの事情に照らすと、原告の前記供述は信用することができない。

また、証人Hは、乙川二郎が、Jに対して、報酬等については被告○○放送も連帯して責任を持つということを口添えで原告に伝えるように言ったと供述するが、同証人は、乙川二郎の右発言を直接聞いたのか、間接的に聞いたのかもはっきり供述せず、証人Hの供述は、それ自体あいまいである上、右事情に照しても、信用することができないものであって、他に原告の前記主張を認めるに足りる証拠はない。

第四  結論

以上によれば、原告の被告乙川ビルに対する本件請求は、弁護士報酬三億三〇〇〇万円及びこれに対する平成五年一二月九日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるので、その限度においてこれを認容し(仮執行免脱の宣言については、相当でないからこれを付さない。)、その余は理由がないからこれを棄却し、原告の被告○○放送に対する請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官・下田文男、裁判官・田代雅彦、裁判官・檜山聡)

別紙物件目録<省略>

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